■ 第17回 2008年5月17日掲載
嬉しいサプライズ

カメラの盗難という災難にあってからというもの、私はまさに抜けがら同然である。テーマを決めてそれぞれの写真を撮ってきたし、描いた似顔絵の記録してきたのに、そういったデータも全て無くしたのである。落ち込むのも当然。帰国後、写真展を企画するつもりでいたのにいっぺんに消し飛んでしまった。リュックからカメラだけを抜き取られ、船で証明書も発行してもらったのに、帰国後、盗難届を提出してみると「保険の対象にならない」という。保険会社には一言、苦言を呈したい。保険に入ってるから大丈夫だと思っていたのに、これが大問題。してやられたと思っている。置き忘れの論理で片づけられてはたまったものではない。どうも私は騙されたようだ。

あの事さえなければこの度のクルーズは大満足だった。ピースボートもジャパングレイスの対応も私にとって満足いくものだった。船会社も大変良かった。ただあの保険の問題さえなかったならばいう事なしのルンルンの旅が出来たのにと悔いが残るのである。保険会社の件についてはこれくらいにしておこう。紀行文のスペースをこれ以上無駄にしたくないから。

さて、気分を変えて楽しいお話に戻すとしよう。カメラは無くしたけれど日本に帰れば保険がカバーしてくれると信じていた私は再び似顔絵に集中する事にした。むしろあの悲劇を忘れる為にそうしたかったのかもしれない。思いがけず自己啓発が出来た。絵を描いた乗客達とは良い形でコミュニケーションが始まっていたが、船のクルー達とはまだだった。それがある一枚の絵をきっかけに展開が変わってきたのである。

皆からプレイボーイと言われていた84歳のお爺さんを描いた時の事である。立ち止まって私の絵を見ていたウクライナ人の女性オフィサーが、笑顔で親指を立てて「グー」と言った。晴天の霹靂である。なぜならそれまでの彼女ときたら取り付く島のない感じだったのである。デッキですれ違う際「ハイ!」と声を掛けても「フン」と無視。内心頭にきていただけに彼女の意外な態度に意表を突かれた感じで驚かされた。思ってもみなかったサプライズである。こういうサプライズなら大歓迎。それからというもの彼女の笑顔を見るたびに年甲斐も無く嬉しくなり落ち込んでいた気分も晴れるのであった。「絵を描いてて良かったなぁ」と思えた瞬間である。ともすれば揺らぎがちだった似顔絵を描く気持ちも揺るぎないものとなった。

さまざまな事情を乗せトパーズ号は次の寄港地イエメンに向けひた走る。私にとってアラブ圏は初めての寄港である。イエメンはアラビア半島の南西に位置し海のシルクロードとして栄えたと聞く。宗教はイスラム教、紀元前はミネア・シバ等の王国に支配され、その後アッパス朝オスマン帝国、イギリスが関わり、また南北イエメンの対立も経験してきた。百聞は一見にしかず。どんなサプライズが待っているか。イエメン上陸がますます楽しみになってきた。今度は家内に倣って市内観光、何事もなければよいが。
(眞吾)