■ 第13回 2008年4月19日掲載
とんだ伏兵、船酔い騒ぎ

シンガポールのは実のところあまり期待していなかったのだが、想像していたのと違い、またいつか訪れたい国の一つとしてリストアップしたくなる程良かった。市内は緑が多く、建物は西洋文化の色が濃く、なかなかしゃれている。世界三大ガッカリの一つにあげられているマーライオンが君臨するマーライオンパークも豊かな緑に埋まり、湾内には大型船が何隻もアンカーを打っている。交通機関も充実している。シンガポールの学生達を船に招いての楽しいひと時もあっという間に過ぎ、名残惜しいけれど彼らとの再開を誓ってお別れした。そして船は静かにシンガポールの港を後にした。

出航はたいてい夜になるが、これがまたエキゾチックでなかなか良いものだ。真夜中の2時に船は出港。一路インドへと向かう。例の一件で落ち込んでいたがそうも言ってはいられない。「初志貫徹に意義あり」と気を取り直した私はストリートアーティストに戻るべくプロムナードデッキに再び立った。家内にも「人の口には扉をたてられない。聞き流すしかないのよ」とあっさり言われ、何を言われてもへっちゃらと心に言い聞かせながら一日、二日と順調にこなしたものの、どうも調子が良くない。

窓から海をみると水平線が大きく右へ左へと揺れている。今までにない揺れだ。インド洋のモンスーンのせいなのか。品の良い和服姿の老夫婦を描いていた私はついに「うわおーっ」と声にならに声を発し、口を押さえトイレに駆け込んだ瞬間、勢いよく吐いてしまった。青い顔をして戻り「どうも済みません」とその老婦人に謝り、似顔絵を続けようとすると、「今日は休まれた方が宜しいのでは?」と言われたので「そうですね」とお言葉に甘えることにした。

その後部屋に戻り、メイドに船酔いの事を告げると、彼女の部屋から酔い止めの薬を持って来てくれた。彼女は「誰にも言わないでね。もし他のクルーに知れるとクビになっちゃうので」と言って、親切に薬をくれた。「へえっ、こんな事ぐらいでクビ?厳しいんだ」と思いつつ、とりあえず一錠飲んだまでは良かったものの、その薬の強いこと。クラクラになってしまった。我々日本人に比べ西洋人には体格が良いせいか、薬も強めに出来ているらしい。「まいった」。でもお陰であまりひどくならずに酔いはおさまった。さて、一難去ってまた一難。このクルーズでの最悪の悲劇が目の前に迫っているとは露知らず、船酔いでふらふらになっていた私である。(眞吾)