■ 第11回 2008年3月29日掲載
法華の太鼓

6月20日、シンガポールに入港した。若者達の手作りの垂れ幕が船腹に掲げられた。そこにはアウン・サン・スー・チーへの激励のメッセージが。このピースボートはある意味で平和への使者でもあり、恵まれない人達へのボランティアやチャリティーをする事も目的の一つでもある。単なる贅沢旅行と違うのが、この船の特色である。

私は英語のプログラムをとっていたのでシンガポールの旅行学校に学ぶ若い学生達の英語ガイドで市内観光をした。ところで誰かがシンガポールのマーライオンは世界三大ガッカリの一つだなんて言っていたけれど、なるほどそれも一理ある。街を散策していると見たことのある若者が公園でケン玉のパフォーマンスをしていた。船でケン玉の自主企画をしている青年だ。船で一緒だと家族のような仲間意識を感じる「頑張って!」とエールを送っておいた。

さてここで、船旅で絶対にしてはならない事を述べておこう。それは「決められた時間までに船に戻る」という約束、帰船リミットである。出発して間もなく慣れていなかったせいもあってか、帰船リミットを意外に軽く考えて遅れて帰船する人が結構いた。身分証明書を取り上げられ、こっぴどく説教される。船上から、スタッフに怒られ、うなだれている光景を幾度が見た。我々夫婦にはそういう事態は無かったから良かったものの、格好良いものではない。それだけは避けたいと努力した。場合によっては、出航の遅れにより何百万の出費につながる事もあるという。

帰船してプロムナードデッキを歩いていると、「似顔絵」という音声を耳にした。声の方に目をやると、35歳前後の女性と老年の男性が話しこんでいた。女性が私のことを話題にしているらしいので注意して聞くと、私が似顔絵を描いている事に批判的らしい。何故だ、私としては似顔絵と称してはいるがデッサンのトレーニングのつもりだ。これまでに7・800枚いろんな所で描いてきた。最初は下手でも7・800枚も描けば法華の太鼓で上達する。誰だって最初は稚拙だ。最初からうまう描ける人などいるはずがない。そう簡単なものではないことは経験者なら分かるはずだ。単なる中傷か。途切れ途切れだが、「似顔絵」「何を考えているのか」、また「私にはできない!」など胸を刺すような言葉が聞こえてくる。いろいろ言う人がいるもんだと一瞬むっと来た。単なる中傷と平静を装うが、こたえた。「こちらは40年、一線でやってきた歴戦の勇者だ」と心で叫んではいたものの、ヘナヘナと体から力が抜け、やる気が失せてしまった。正直、あれから2日間、描く気がしなかった。

ドイツのサッカーの往年の名選手ベッケンハイマーの有名な言葉に「スポーツマンはマシンである、常に、最高のコンディションで発進できるように鍛えておかなければならない」。この言葉を思い出した。絵も同じである。やると決めた以上続けなければ…。実践あるのみである。(眞吾)