■ 第5回 2008年2月9日掲載
エキゾチックな南国の夜
笠木先輩との再開以来すっかり意気投合した私達は三度の食事に始まり、なにかにつけ行動を共にした。笠木先輩は東京藝術大学、大学院卒業一期生。今で言う美大予備校の先輩であり、後にパリに留学。船の中で描かれたデッサンを垣間見たが、さすが、私の及ぶところではない。ところが、何故かジェラシーが湧かないのが不思議だ。能ある鷹は爪を隠すというがまさにその感ありだ。私など殺気ムンムンかも。

20年前、とある美術系専門学校の理事を私に推薦して下さったのがそもそもの始まりである。船内では金魚のふんの如くくっ付いて回った。話題を美術に持っていくと、技術、美術史、果ては尽きない。私にとってまさに至福の時とはこの時をいう。そうこうするうちにもう一人紳士が現れた。某カメラ会社の重役だった人だ。コンビに一人加わりトリオとなる。

いよいよベトナムのダナンに上陸。何を食べるかが、いの一番に興味の湧くところだ。家内たちはオプショナルツアーに出かけ我々トリオは食い気一番。港の近くのあまりきれいとはいえないレストランに入った。中は客で賑わい、見た事があるような顔が並んでいる。ラフな格好をしているが、よく見るとクルーたちだった。そういえばトラックドライバーはうまいところをよく知っていると。まさにそれだ。彼らも何度も来ているせいか安くてうまい店をよく知っているのだ。

とりあえず海老の塩焼きを注文。ビールで乾杯しているところへタイミング良く海老の塩焼きが出た。その量の多さときたら半端ではない。3人口元にビールの泡かなんかくっ付けちゃって「凄いねー」と、顔を見合わせニンマリとした。ビールで乾杯してると何となく日本に居る気分なんだなー、これが。「そういえば、ここはベトナムだもんねー。安いはずだよね」。何だかとても得した気分になって今度は魚の唐揚げを注文したら、こらがまた馬鹿でかい。「凄いねー」の連発だった。こうして南国の不思議でエキゾチックな夜を何処へも行かず、ただ食べるだけで過ごした我々トリオは馬鹿だったのだろうか。観光から帰ってきた家内から楽しそうに「あーだった、こうだった」と聞かされると、観光に行かなかった自分に後悔の念も無いでも無かった。

ベトナムの人たちの見送る中、船は静かに桟橋を離れていった。と言いたいところだが、デッキではスピーカーで音楽を流し、皆、ワインなどを飲みながら大騒ぎの船出であった。(眞吾)